たくさんの人でいつもごった返す香港。
湿気は多いし暑いし、大声で話す人が行きかう様はまるで銭湯にいるようだと思います。
でもこの国には私を引き付けて止まない魅力がいっぱい!!
香港に暮らし、生まれたばかりの子供を育て、大学へ通い、食文化を勉強した7年間。
わが子にとっても私にとっても忘れられない第2のふるさとです。
そんな香港を思うと、いつまでもこの国がこの国らしく自由でエネルギッシュであるようにと、心から願ってやみません。
主人の転勤で香港へ移り住んだのが2001年1月。
半年ほど経った時、香港の建物やバスなどの乗り物の冷房があまりにきつくて体の冷えがすごく気になりだしました。
ふと見ると香港人の女性はみな素足にサンダルで平気でいる。
同じアジア人なのにこれはきっとなにか体質に秘密があると思い、香港人の食生活がむしょうに気になりだしたのです。
まず手始めにガイドブックに載っていた「糖朝(とうちょう)」へ行ってみました。
今では東京にも何店舗か出店されている、薬膳デザートと、麺やおかゆなど軽食出す軽食屋さんとして
とても有名なお店です。
香港では今は尖沙咀(チムサーチョイ)という場所に1店舗のみとなっていますが
観光客のみならず、現地の駐在員にもよく利用され、いつも込み合っています。
すると、そこでは老若男女、身体によさそうな豆腐のシロップがけやらなにやらドロッとしたお汁粉やらを
食べていました。
第一、こういう昔ながらの伝統的な薬膳スイーツの甜品屋(デザート屋という意味)が存在することからして
興味深いではありませんか!
そこで、糖朝の女性オーナーが出しているレシピ本をローカル書店で買い集め
その中に紹介されている香港人が昔から日常に食べているものを片っ端から作ってみようと思いました。
しかし、それに載っている薬膳食材の買い方がわからない。
一人で街市(がいし・現地の路上市場のこと)へ行くのも結構勇気がいる。
そこで思いついたのが、アマさん(お手伝いさんのこと)を香港人にすれば、家に来てもらえて、
料理も習えるのではないか。
「料理上手」を条件にして香港人のアマさんを探して出会ったのが頼(らい)さんでした。
頼さんには街市へ一緒に出かけてもらい、漢方食材の買い方や見分け方、珍しいものの使い方などの説明を
してもらいました。
はじめて見る街市はそれはショッキングでした。
香港とはおもしろいところで、お金を出せばいくらでも高級感あふれる場所があり、
いくらでもリッチな雰囲気をかもし出しこれでもかというハイソな一面を持つ反面、
日本で生まれ育った者には理解しがたいぐらいスゴ〜イ場所もあります。
街市の道はぬるぬるで、パンツのすそがその水分を吸うのはおそろしかったし、
肉屋へ向かうおじさんが血が滴る豚の頭部だけを肩に担いで歩いていたり・・・
その先にあるお肉屋さんには、どこのパーツだかよく分からないお肉がいっぱいぶらぶらとぶら下がっていて
前抱っこで連れて行った当時まだ赤ちゃんだった次女がここで息をしても大丈夫かなと心配になったほどです。
頼さんはもちろん平然と、なおかつてきぱきと私をいろんな場所へ連れて行ってくれ一つ一つ丁寧に説明してくれます。
日本人の私からするとゲテモノの部類にはいりそうなおそろしげなものを、
頼さんは「昨日のスープにいれました」「小さい頃からよく食べています」と言う。
タツノオトシゴなんかがそうでした。
やっぱり日本人ですから、私、「・・・エエーッ!!!???」という表情をして聞くと、
「えびやかにと同じ海のものですよ」とあっさり言われ、なるほど、日本人がたこを食べると聞いて驚く国の人がいるのと
同じ感覚なのかなぁ〜と自分に言い聞かせました。
慣れとはすごいもので、そのうちこれが私の日常の買い物風景となっていったのです。
頼さんから習ったのは、スープ、糖水、おかずの中でも薬膳素材や乾物を使ったもの。
料理レシピ以外にも、子供の具合の悪いときに与えてはいけないものなど
日常の食養生についてもよくアドバイスしてもらいました。
どの話も目からうろこの連続、これが同じアジア人でも冷えを感じない強靭な体質と
大きな声で話しながら、朝から晩まで元気に働く香港人のたくましさの謎が解けたと思う瞬間でもありました。
まず大きく変わったことが「○○という症状にはこれが効く!」と聞いては、
そのときだけそれを多量に採ると身体によさそうだ、という考え方が根本的に間違っていることに気がついたのです。
香港の人はそのときの気候やその日の天気、家族や自分の体調をみながら献立を考える、
「薬食同源」=薬と食べ物は同じ、という考えが日常に根付いていること、
それが先祖から脈々と受け継がれていること、
薬膳は特別食ではなく、毎日の日々のごはんそのものが「薬膳」で
あることに深く感銘を受けたことを今でもはっきり憶えています。
人生とは本当におもしろいものですね。
何のご縁があってか、香港という土地に住むことになりその人々の生活を目の当たりにしたことがきっかけで、私は
その後、中医学への道へと導かれていくことになったのです。